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01 死神少女1
2009年08月24日 - MINUS-LOVER
私の名前は「ひわ」。何処にでもいるごく普通の、平凡な女だ。
ある一点を除いては。
「私の隣にはブラックホールがある」
友達に言えば笑って終わったセリフだ。理由を言ったところで半信半疑、信じられるわけもない。普通の人間なら。
「私の隣には常に死がある」
容易く言ってしまえばそういうことだ。
私はどうもそういうものをもっているらしい。近づいたら、不幸になる。
生命エネルギーというやつを、奪い取ってしまう。
好きになればなるほどに。
だから、私は人を好きにならない。
死神少女 1
最初はまだ小学校の頃だった。小さくてよくいじめられていた私を、その学校の校長先生はとても優しく見守ってくれていた。仕事で忙しかった両親よりも、多分その頃は一番好きだった人だった。
年老いてはいたけれど毎朝必ず教室を回って子供達に会いに来る、私だけじゃなく、皆から慕われていた校長先生だった。
「ひわちゃんの手は、つめたいねぇ」
そう言っていつも、暖かい手で暖めてくれた、先生。大好きだった、先生。
私が小学校一年になってから暫くして、先生は居なくなった。その頃はまだ何も知らなかったけれど、病気になって亡くなられたのだと、後から知った。
それから小学校の間に何度か校長先生が替わったけれど、クラスを見回ることもなかったし、他の先生も大して私は心を許せる相手と認識出来なくて、それきり学校の先生とは仲良くなったためしがない。
五年生の時、クラスでドッジボールをしている途中、一人男の子が急に消えた。後から病院に行っていたのだと知った。
先生に「お前らは何で傍にいるのに気づかなかったんだ」と怒鳴られたが、一人で何も言わずその子が消えたから、誰も気づくはずもない。子供達にそこまで求める大人もどうかと思う。
ちなみにその頃、少しだけその子のことが好きだった。どうでもいい話。そう思っていた、つい最近までは。
中学生になってからは益々人間という生物に対する嫌悪感が募って、すっかり心の扉を閉ざしてしまった。
何となくこのままじゃいけないと思って、高校生になってからスイッチを入れるように明るくなった。極端なギャップは、極端な性質を生み出すものだ。
中学校の三年間で溜まっていたものが、その頃から吹き出していたなんて、その頃の私には気づくはずもなかった。
高校に入ってから、気になる異性の友達が怪我をしたり、病気になったり、果ては死んでしまったりで、ショックの連続だった。何で自分が好きになった人ばかり、居なくなってしまうんだろう。
もしかしたらうすうす自分でも気づいていたのかも知れない。知りたくなかっただけだったのかも知れない。
子供の頃から変なものが見える体質だった。俗に言う、幽霊だとかだと思う。でも小さい頃から不安定な子供だったから、多分幻覚でも見ているのだろうと高をくくっていた。
恋人をつくって、それなりに楽しい生活を送って、でも直ぐに分かれて、なんて、まるで児戯のような恋愛をしながら、それでも徐々に成長して、やがて、二十代半ばになってから、心を許せる男に出逢った。
その人はとても優しい人だった。それでいて、とても野性的な人だった。穏やかな口調で馬鹿な私にも解りやすく話しかけてくれた。本気で他人を好きになったのは、これが初めてだった。
それから数ヶ月、私はきっと一番幸せだったんだと思う。
彼が病気で入院して、二度と会えなくなるまでは。
離れて過ごしていた私と彼の間では専ら、チャットで会話したり、メッセンジャーで会話したりしていたのだけれど、それも音信不通になり。
不安に急かされ会いに行ったときには、すでに息を引き取っていた。
あんなにたくさん泣いたのは初めてだった。二度と人を愛するまいと思ったのも初めてだった。
彼の亡骸の傍で泣き続ける私に、それが声をかけたのは、そのときが初めてのことだった。
「死んじゃった。ざぁあんねん」
振り返れば、牛の骨をかぶったような、大きくて、曲がった背中をした化け物が立っていた。長い毛に全身を覆われて、中がどうなってるのかは解らない。
「あんたぁが、傍にいたからだぁね」
「どういう意味・・・」
「あんたぁは、霊的にマイナスぅ、なのさ。マイナスの人間は、プラスの人間の生気をぉ、奪って生きる。だからぁ、死んだんだぁね」
信じられなかった。自分が傍にいたから?だって、でも、そうしたら。
「だったら、もっと傍にいる人はいっぱいいたじゃないか。彼は最近、顔も見てなかったのに」
化け物はふひ、と笑った。
「距離、じゃなぁい。心ぉが、近いんだぁ。あんたぁが、好きだっって、おもおぅ気持ちが、津避けりゃ、強いほどぉに、相手の生気をぉ、奪うのさぁ」
そんなことを言われても信じられるわけもない。否、信じたくない、と言った方が正解だったかもしれない。化け物の戯言だ。そう強く念じることで、それを真実にすり替えようとした。
無意識のうちに気づいていたのに。
それから数年後、また私は恋をした。少し子供っぽいところもあるけれど、私だけを見てくれる優しい男。
これでやっと、自分も幸せな結婚が出来るんじゃないかと思った。結婚自体に興味はなかったけれど、父は早くに死んでしまったし、母親の苦労を見ていたから、自分も幸せになれば、母親に楽をさせて上げられる、そう思う気持ちもあったから。
だけど、彼もまた病気になって死んでしまった。
あれ以来、ずっと化け物が傍にいる。姿が見えなくてもいつも傍に。
時折現れては、「誰かぁ、また好きにならなぁいの?」だの、「はやぁく、殺そう。たくさぁん、殺そう」などとはやし立ててくる。
化け物のの、思い通りになどなりたくはない。
私は心を閉ざして生き続けた。容易く死ねれば良かったのに、死ぬことは不思議と出来なかったから。
「まいなぁす、零より『無い』のぉに、零になれるわけがなぁいね」
化け物は今日も、はやし立てる。
ある一点を除いては。
「私の隣にはブラックホールがある」
友達に言えば笑って終わったセリフだ。理由を言ったところで半信半疑、信じられるわけもない。普通の人間なら。
「私の隣には常に死がある」
容易く言ってしまえばそういうことだ。
私はどうもそういうものをもっているらしい。近づいたら、不幸になる。
生命エネルギーというやつを、奪い取ってしまう。
好きになればなるほどに。
だから、私は人を好きにならない。
死神少女 1
最初はまだ小学校の頃だった。小さくてよくいじめられていた私を、その学校の校長先生はとても優しく見守ってくれていた。仕事で忙しかった両親よりも、多分その頃は一番好きだった人だった。
年老いてはいたけれど毎朝必ず教室を回って子供達に会いに来る、私だけじゃなく、皆から慕われていた校長先生だった。
「ひわちゃんの手は、つめたいねぇ」
そう言っていつも、暖かい手で暖めてくれた、先生。大好きだった、先生。
私が小学校一年になってから暫くして、先生は居なくなった。その頃はまだ何も知らなかったけれど、病気になって亡くなられたのだと、後から知った。
それから小学校の間に何度か校長先生が替わったけれど、クラスを見回ることもなかったし、他の先生も大して私は心を許せる相手と認識出来なくて、それきり学校の先生とは仲良くなったためしがない。
五年生の時、クラスでドッジボールをしている途中、一人男の子が急に消えた。後から病院に行っていたのだと知った。
先生に「お前らは何で傍にいるのに気づかなかったんだ」と怒鳴られたが、一人で何も言わずその子が消えたから、誰も気づくはずもない。子供達にそこまで求める大人もどうかと思う。
ちなみにその頃、少しだけその子のことが好きだった。どうでもいい話。そう思っていた、つい最近までは。
中学生になってからは益々人間という生物に対する嫌悪感が募って、すっかり心の扉を閉ざしてしまった。
何となくこのままじゃいけないと思って、高校生になってからスイッチを入れるように明るくなった。極端なギャップは、極端な性質を生み出すものだ。
中学校の三年間で溜まっていたものが、その頃から吹き出していたなんて、その頃の私には気づくはずもなかった。
高校に入ってから、気になる異性の友達が怪我をしたり、病気になったり、果ては死んでしまったりで、ショックの連続だった。何で自分が好きになった人ばかり、居なくなってしまうんだろう。
もしかしたらうすうす自分でも気づいていたのかも知れない。知りたくなかっただけだったのかも知れない。
子供の頃から変なものが見える体質だった。俗に言う、幽霊だとかだと思う。でも小さい頃から不安定な子供だったから、多分幻覚でも見ているのだろうと高をくくっていた。
恋人をつくって、それなりに楽しい生活を送って、でも直ぐに分かれて、なんて、まるで児戯のような恋愛をしながら、それでも徐々に成長して、やがて、二十代半ばになってから、心を許せる男に出逢った。
その人はとても優しい人だった。それでいて、とても野性的な人だった。穏やかな口調で馬鹿な私にも解りやすく話しかけてくれた。本気で他人を好きになったのは、これが初めてだった。
それから数ヶ月、私はきっと一番幸せだったんだと思う。
彼が病気で入院して、二度と会えなくなるまでは。
離れて過ごしていた私と彼の間では専ら、チャットで会話したり、メッセンジャーで会話したりしていたのだけれど、それも音信不通になり。
不安に急かされ会いに行ったときには、すでに息を引き取っていた。
あんなにたくさん泣いたのは初めてだった。二度と人を愛するまいと思ったのも初めてだった。
彼の亡骸の傍で泣き続ける私に、それが声をかけたのは、そのときが初めてのことだった。
「死んじゃった。ざぁあんねん」
振り返れば、牛の骨をかぶったような、大きくて、曲がった背中をした化け物が立っていた。長い毛に全身を覆われて、中がどうなってるのかは解らない。
「あんたぁが、傍にいたからだぁね」
「どういう意味・・・」
「あんたぁは、霊的にマイナスぅ、なのさ。マイナスの人間は、プラスの人間の生気をぉ、奪って生きる。だからぁ、死んだんだぁね」
信じられなかった。自分が傍にいたから?だって、でも、そうしたら。
「だったら、もっと傍にいる人はいっぱいいたじゃないか。彼は最近、顔も見てなかったのに」
化け物はふひ、と笑った。
「距離、じゃなぁい。心ぉが、近いんだぁ。あんたぁが、好きだっって、おもおぅ気持ちが、津避けりゃ、強いほどぉに、相手の生気をぉ、奪うのさぁ」
そんなことを言われても信じられるわけもない。否、信じたくない、と言った方が正解だったかもしれない。化け物の戯言だ。そう強く念じることで、それを真実にすり替えようとした。
無意識のうちに気づいていたのに。
それから数年後、また私は恋をした。少し子供っぽいところもあるけれど、私だけを見てくれる優しい男。
これでやっと、自分も幸せな結婚が出来るんじゃないかと思った。結婚自体に興味はなかったけれど、父は早くに死んでしまったし、母親の苦労を見ていたから、自分も幸せになれば、母親に楽をさせて上げられる、そう思う気持ちもあったから。
だけど、彼もまた病気になって死んでしまった。
あれ以来、ずっと化け物が傍にいる。姿が見えなくてもいつも傍に。
時折現れては、「誰かぁ、また好きにならなぁいの?」だの、「はやぁく、殺そう。たくさぁん、殺そう」などとはやし立ててくる。
化け物のの、思い通りになどなりたくはない。
私は心を閉ざして生き続けた。容易く死ねれば良かったのに、死ぬことは不思議と出来なかったから。
「まいなぁす、零より『無い』のぉに、零になれるわけがなぁいね」
化け物は今日も、はやし立てる。
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